全然知らない作家の10号位の作品なんて日本では買ってくれないですよ。それを、ポンと買ってくれる人が海外にはいるんです。特別なことじゃないんですね。
今回のインタビューは2011年6月に松戸で行われてた展覧会『戸定邸・日本画タイムスケイプ』にもお越しになり、ギャラリーでの小品展を提案してくださった、ギャラリー坂巻のオーナー坂巻喜久さんです。同年11月に『サラチカ』という展覧会が実現しました。現代美術を主に扱っている坂巻さんにみえている「日本画」とは。また普段はあまり聞けない美術業界のお話を聞いてきました。(聞き手・小林)
——美大生などでどのように画廊での展示に運べばいいか分からない人は多いと思います。坂巻さんのところでは作家自身が作品を持ち込んで展示をするということが多いですか。
「そうですね。あと、美大の卒業制作展とか修了制作展を私が見に行って、だいたいどこの美大にも知っている人がいるので、そのつてを通じて連絡を取ったり、あと作家さんの名刺とかが置いてある場合もあります。」
——坂巻さんから声をかけることもあるんですね。
「あります。」
——サラチ分析のメンバーはみな日本画を学んできたのですが、ギャラリー坂巻では日本画の人の展示は少ないですよね。
「大学の卒展などを見に行くと日本画の人の中で眼にとまるというか、気にかかる人っていうのは少数なんです。」
——芸大の卒業制作展や5美大展は見に行かれましたか。日本画の印象はどうでしたか。
「はい。行きました。何十年も続けて見ているわけではないけど、毎回似たようなものを見ているような気がするんです。比較的私大の日本画のほうが冒険している感じは受けますね。ただ総体的に日本画の人からは「大学だから勉強する時代」という意識を強く感じます。他の科の人は平面なら平面、立体なら立体を自分の中で作り出そうという姿勢を感じます。日本画を音楽にたとえられるかもしれません。音楽の楽器というのはある程度の技術をマスターしてからでないと楽曲の演奏ができません。技術をマスターした上でその人なりのパーソナリティが出てくるんですね。一方美術の場合は、当然テクニックも必要です。油の溶き方とか、透視図法とか。しかし、いっぺんにすべてを学んでからでないと作れないわけではないですよね。学びながら同時に作っていくことが可能です。しかしどうも日本画の人は技術の習得が第一になってしまっているように見えます。そういう意味では難しいジャンルではあるんでしょう。」
——5美大展は国立新美術館でやっていましたが、同じ館内でメディア芸術祭が行われていました。そこにサラチ分析メンバーの四宮がアニメーション作品を出展していたのですが、ご覧になりましたか。
「そうだったのですか!お知らせしてくだされば行きたかったな。」
——お知らせしてなくてすいません…。さて、最近日本画の作家で注目している人はいますか。
「たとえば今、三瀬夏之介さんがいます。ただ、あの方が「日本画」でなければいけないとは思いません。日本画といわなくてもいいんじゃないの、と。それはもしかしたら見る側の問題かもしれません。「日本画とはどうあるべき」というのが頭に入っちゃってるのかもしれません。」
——ギャラリストとして作品をあつかっていて、日本画という括りはどのように見えていますか。
「日本画ばかりを扱っているマーケットは結構あると思うんです。そういう世界では、作家が花を描けるようになった、とか、人物を描けるようになったというような話をするようですが、いまの私の立場ではあまりそういうことに関心はありません。形が正確なわけではないけど、すごく面白い人物を描く作家もいるのです。たとえば、先週うちで個展をやったのですが高津戸優子さん※1の油彩作品にそういうものを感じます。」
※1高津戸優子 森マスター 油彩 キャンバス
——作家が作品を売っていく上で、例えば作品の形式的な部分で、何かアドバイスはありますか。
「作品を買うようなお客さんは、もちろん全てではないですが、たくさん作品を持っているのでなかなか大きいのは手を出しづらいんです。6号くらいでもけっこうな大きさ、ということを言う方もいらっしゃいます。そういうことに作家さんがあわせてしまうと、なかなか勉強にならないだろうなと思います。100号サイズのものが絶対に売れないということはないのですが可能性が低いので、気の毒に思うことはあります。」
——美術界を眺めていてどうでしょうか。バブルのころに比べて絵はやはり売れなくなってますよね。
「それはそうです。そのころも大学出たての作家は売れていたわけではありません。ただ中堅以降の作家の作品の値段が今とぜんぜん違いますね。」
——坂巻さんはアジアのほうのアートフェアにも参加されてますよね。
「毎年出ていたのがあったのですが最近は出していません。交通費、輸送費、滞在費、出展料などやはり海外だと経費がかかりますからね。準備にかかる時間も少なくありません。ただ、やっぱり海外の方が売れるという部分はありますよ。」
——アジアのどの国なのでしょうか。
「韓国と香港と、それから画廊どうして提携しているのがシンガポールにあります。」
——日本より売れるという手応えはありますか。
「そうですね。だって全然知らない作家の10号位の作品なんて日本では買ってくれないですよ。それを、ポンと買ってくれる人が海外にはいるんです。特別なことじゃないんですね。そういう人が買った作品を取りにくるとき、すごい高級車できたり。人間的には普通の人なんだけどね。また、先程も話したとおり、海外に作品を持って行くにはそれなりに経費がかかります。だから、海外に作品を持って行って売れた場合の取り前は、日本の場合より多めにいただきます。うちは作家が4で画廊が6です。」
——良心的ですね。
「作家と画廊の取り前は、国内で売っていても画廊が8で作家が2でやっているところもあります。色々なケースがありますね。ただ、海外に持って行くと金銭的なこと以外にも作家が得るものは大きいと思います。」
——坂巻さんは日本のアートフェアにも出品してらっしゃいますが海外と何か違いはありますか。
「日本だと、新しいお客さんと知り合うとその後もまた買ってくれたりする。海外だとそれがないですね。一回限りの出会い。後からメールで連絡をとってもなかなかね。」
——さて、坂巻さんのおすすめの作家さんはいますか。
「木彫をやってる牧田草平さん※2。お客さんの評価も高いし、私自身もぐっと来るものを作ってきてくれる。私だけがいいと思っているのではなく、お客さんも良いといってくれる。それはこの仕事をやってる人間の喜びです。あと、私のギャラリーで(2012年)6月に展示をする予定の若林麻耶※3さん。芸大の彫金の方なのですが彼女の展示が楽しみです。」
※2 牧田草平 Now I’m here 木彫 ※3若林真耶(時)銅、ガラス
——若い美術家たちに何か言いたいことはありますか?こうした方が良いよとか。
「どうしろって事は言えないんだけど、もうちょっと稼いだ方が良いと思うよ。作品でというのがベストなんだろうけど、とりあえず生活をちゃんとしろと(笑)」
——制作活動を続けることとお金のことは作家にとっては常に大きな問題です。そういう作家の生活は坂巻さんにはどのように見えていますか。
「戦いですよね。やはり裕福な家の作家さんで、支援を受けられる人はそのあたりで苦労は少ないですよね。大作家さんは大作家さんで違う動きをしているんでしょうし。シビアですが一人勝ちの世界なのかもしれません。」
タカモトタカユキ 至福の予感 137x162cm. アクリル パネル
インタビューをとらせていただいた時に展示されていた、タキモトタカユキさんの作品。
——最後に、サラチ分析に一言コメントをいただけますか。
「サラチ分析はどこを向いているんでしょう(笑) ただ、昔の「もの派」とか「具体」とか、その当時としてはどこを向いているか分からなかったグループだと思うんです。長い時間がたって後から振り返ったときに面白い活動してたね、と言われるんだと思うんです。サラチ分析の活動はそういうものかも知れない。だからこそ、今のうちに4人だからこそできることをやって作品をたくさん作ってほしいですね。戸定邸の展示は本当によかったと思います。」
2012.3.3(聞き手・小林)
ギャラリー坂巻
〒104-0031 東京都中央区京橋2-8-18 昭和ビルB2F
03-3563-1733
gl.sakamaki@nifty.com
http://gallery-sakamaki.net
[画廊趣旨]
今日の日本では、時代感覚の優れた多くの20代から40代の作家が輩出されています。
彼らは小さい頃より色彩の豊かな多様なリズム感のなかで育ち、その感性を磨き続け、
作品制作において、世界から見ても非常に特色ある作品を生み出しています。
そういう彼らの作品を社会に繋げていきながら、
アートが育つ社会、アートで世界とリンクする社会を目指しています。
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